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東京家庭裁判所 昭和50年(家)3029号 審判 1980年2月12日

申立人 中塚雅則

相手方 中塚恵美 外一名

主文

一  被相続人中塚雅夫(本籍長崎県南高来郡○○町○××××番地、最後の住所東京都板橋区○○×丁目××番×号、昭和四八年一〇月九日死亡)の遺産を次のとおり分割する。

1  別紙目録一記載の土地、同目録三及び四記載の各建物について各四分の一の持分権並びに同目録二記載の土地について一八四分の一の特分権はいずれも申立人の単独取得とする。

2  申立人は、相手方中塚よし子及び相手方中塚恵美の各自に対し、それぞれ金一、八〇一、六六六円及びこれに対する本審判確定の日の翌日から完済に至るまで五年分の割合による金員を支払え。

二  相手方中塚よし子は申立人に対し別紙目録四記載の建物を明け渡せ。

三  本件手続費用中、鑑定人○○○に支給した金九〇、〇〇〇円は当事者全員の平等負担とする。

相手方中塚よし子及び相手方中塚恵美は、各自、上記費用の償還として、申立人に対し各金三〇、〇〇〇円を支払え。

理由

一  相続開始及び共同相続人

甲第一号証、証人小林保郎及び証人森山恵子の証言によると被相続人中塚雅夫は生前東京都庁に勤務し東京都○○組合の役員をしていた者であるところ、昭和四八年一〇月九日東京都板橋区において死亡したこと、相手方中塚恵美(昭和三五年三月一三日生)及び申立人(昭和三七年七月一七日生)は被相続人とその先妻森山恵子(昭和四五年二月一四日協議離婚)との間の長女及び長男であり、相手方中塚よし子(以下単に相手方よし子という。)は被相続人と昭和四七年二月一〇日婚姻した同人の妻であることが認められる。

したがつて、昭和四八年一〇月九日被相続人につき相続が開始し、その妻相手方よし子、長女相手方中塚恵美(以下、単に相手方恵美という。)及び長男申立人の三人が共同相続人である。

二  本件申立ての経緯及び相続分

家庭裁判所調査官○○○の昭和四九年一一月一六日付調査報告書、証人森山恵子の証言、その他本件記録によると、本件相続開始後、当事者間で遺産分割の協議ができないため、申立人の法定代理人(親権者母)である森山恵子から昭和四九年三月一一日相手方よし子に対し当庁に遺産分割の家事調停の申立てがなされ、昭和五〇年四月二二日調停不成立となり、審判に移行したことが認められる。また、被相続人が遺言により相続分の指定をしたことを認める証拠はない。

したがつて、法定相続分によつて分割をなすべきところ、各当事者の法定相続分は、いずれも各三分の一である。

三  相続財産の範囲

1  甲第三ないし第六号証、同第一〇号証の一、二、同第一一号証及び証人小林保郎の証言によると、本件相続開始当時、別紙目録一、三及び四記載の各土地、建物について各四分の三の共有持分は森山恵子に、各四分の一の共有持分は被相続人に帰属し、同目録二記載の土地について一八四分の三の共有持分は森山恵子に、一八四分の一の共有持分は被相続人に帰属していたことが認められる。

したがつて、本件相続開始当時、別紙目録一、三及び四記載の各土地、建物の各四分の一の共有持分並びに同目録二記載の土地の一八四分の一の共有持分が被相続人の相続財産である。

2  申立人代理人は、別紙目録三記載の建物は被相続人の生前から高田茂男に賃貸されて現在に至つており、本件相続開始後現在まで同建物の家賃収入の四分の一は相続財産とみなされるべきであると主張する。

甲第一三ないし第一六号証、同第一八号証によると、別紙目録三記載の建物は被相続人の生前から高田茂男に賃貸されており、相手方よし子は、本件相続開始後上記建物の賃料を同賃借人から受け取つていることが認められる。

相続開始後遺産分割までの間相続財産たる上記建物から生ずる家賃は、相続財産そのものではない。また、遺産分割は相続開始時に遡及して効力を生ずるが、これは遺産分割により共同相続人中の一部の相続人に帰属した財産を被相続人から当該相続人に直接承継されたものとするための擬制であり、それによつて相続開始後遺産分割までの間相続財産から生ずる家賃が遺産分割によつて上記建物を取得する当該相続人に当然に帰属するものと解すべきでない。これらの家賃は、相続財産の果実であり、相続人が複数いるときには、相続財産におけると同様な持分による共同相続人間の共有財産であるが、相続財産とは別個の共有財産であり、その分割又は清算は原則的に訴訟手続によるものと解するのが相当である。もつとも、これらの家賃が相続財産と同様の持分による共有財産であり、相続財産と同時に分割することによつて権利の実現が簡便に得られるなどの合理性が認められることを考慮すると、相続財産と一括して分割の対象とする限り、例外的には遺産分割の対象とすることも許されるものと解する。この場合、当事者の訴権を保障する観点からすれば、相続開始後遺産分割までの間の家賃を遺産分割の対象とするには、当事者間にその旨の合意のあることが必要であるというべきである。

これを本件についてみるに、相手方よし子は第一回審判期日(昭和五〇年六月一六日午後二時三〇分)に出頭したのみで、同相手方に対する審問の呼出しにも、また当庁家庭裁判所調査官による再三の出頭勧告にも応ぜず、相続開始後の家賃に関し本件遺産分割の対象とすることについてその合意は得られない状況にある。このような状況の下においては、相続開始後遺産分割までの間の家賃を本件遺産分割の対象から除外すべきものと思料する。

3  申立人代理人は、被相続人の死亡により、東京都が、「職員の退職手当に関する条例」(昭和三一年九月二九日条例第六五号)第三条にもとづき相手方よし子に支払つた退職手当金九、四二七、五八〇円、同じく東京都恩給条例(昭和二三年九月二二日条例第一〇一号)第五〇条にもとづき相手方よし子に支給している遺族扶助料合計金三、〇二二、五六六円(昭和四八年一一月分から昭和五四年八月分まで)及び被相続人の死亡により、(1)受取人である申立人に対し○○生命保険相互会社から支払われた生命保険金七〇〇、〇〇〇円、(2)受取人である相手方よし子に対し○○生命保険相互会社から支払われた生命保険金二、二九三、〇七〇円、(3)受取人である相手方恵美に対し○○生命保険相互会社から支払われた生命保険金二、二九三、〇七〇円、いずれも相続財産に属する、と主張する。

甲第七号証の一、二、同第八号証、当庁の調査嘱託に対する東京都職員共済組合年金第一課長○○○○○の「遺族年金受給について」と題する回答書及び証人森山恵子の証言を合わせ考えると、被相続人の死亡により、相手方よし子は、東京都から申立人代理人主張のとおりの退職手当額及び東京都共済組合から申立人代理人主張のとおりの遺族年金額(ただし、円未満を切捨てると金三、〇二二、五六五円)の支払いを受けたこと、相手方よし子は被相続人の死亡当時被相続人と同居し、主としてその収入により生計を維持していたことが認められる。

甲第一七号証によると、相手方よし子が支払いを受けた退職手当について適用された上記、「職員の退職手当に関する条例」第三条は東京都の職員の死亡による退職金をその遺族に支給する旨定め、上記退職金の支給を受ける遺族の範囲と順位を規定している第四条は配偶者を第一順位の受給資格者と定めていることが認められる。また、相手方よし子が支払いを受けた遺族年金について適用される地方公務員等共済組合法(昭和三七年一二月一日施行)第二条第四五条及び第九三条によると、組合員の死亡による遺族年金は組合員の遺族に支給され、遺族は組合員又は組合員であつた者の配偶者、子、父母、孫及び祖父母で組合員又は組合員であつた者の死亡当時主としてその収入により生計を維持していたものと定められ、給付を受けるべき遺族の順位は、配偶者、子、父母、孫及び祖父母の順位とする旨定められている。これによると、配偶者が第一順位の受給資格者ということになる。これら条例又は法律の定める受給資格者は、いずれも単なる受領代表者と解すべきではなく、受給権者と解すべきである。

したがつて、被相続人の死亡により、相手方よし子が、東京都から支払いを受けた退職手当及び東京都職員組合から支払いを受けた遺族年金は相手方よし子の固有の権利にもとづくものであるというべきであるから、被相続人の相続財産ということはできないものと解するのが相当である。このことは、相手方よし子と申立人及び相手方恵美との間に血縁関係(母子関係)がないことにより左右されるものではない。

また、当庁の調査嘱託に対する○○生命保険相互会社保険金部保険金課の「中塚雅夫殿を被保険者とする生命保険契約について」と題する回答書及び証人森山恵子の証言を合わせ考えると、申立人代理人主張のとおりの生命保険契約にもとづき、受取人と指定された申立人、相手方よし子及び相手方恵美がそれぞれ申立人代理人主張どおりの生命保険金を各保険会社から受けとつたことが認められる。これらの生命保険金は、いずれも上記保険契約にもとづき保険会社から受取人である申立人、相手方よし子及び相手方恵美がそれぞれ固有の権利にもとづき支払いを受けたものと解すべきであるから、被相続人の相続財産ということはできない。

四  特別受益

申立人代理人は、上記退職手当、遺族扶助料及び各生命保険金が相続財産でないとしても、それらは少なくとも各受給者の特別受益とみるべきものである、と主張する。

1  まず、退職手当及び遺族年金について判断する。

相手方よし子に支払われた上記死亡退職手当及び遺族年金は、前者が一時金、後者が年金であるが、いずれも基本的には遺族の生活保障を主たる目的としたものであると解することができる。条例又は法律の定めにより、受給権者が固有の権利を有することは、すでに判示したとおりであるが、受給権者が共同相続人の一人であるとき、共同相続人間の衡平を図るため、これら退職手当又は遺族年金を特別受益に該当するとする見解も見受けられるところである。

しかしながら、(1)死亡退職手当に未払賃金の後払的な側面が含まれ、遺族年金に死亡者の出損する掛金をもとにした給付の性格があるにしても、これらは、文理上民法九〇三条に定める生前贈与又は遺贈に当たらないこと、(2)受給権者である相続人が死亡退職手当又は遺族年金のほか相続分に応じた相続財産を取得しても、この結果は共同相続人間の衡平に反するものということはできないし、むしろ被相続人による相続分の指定など特段の意思表示がない限り、被相続人の通常の意思にも沿うものと思われること、(3)民法一〇四四条は遺留分に関し同法九〇三条を準用しているが、上記死亡退職手当又は遺族年金は遺留分算定の基礎に算入されながらも、減殺請求の対象にならないものと解され(減殺請求の対象になるとすると、受給権者の生活保障を目的とする条例又は法律の趣旨に牴触することになる)、その結果、他に贈与又は遺贈がないとき、遺留分侵害を受けながら減殺請求ができない場合が生ずるという不合理な結果が考えられること、(4)遺族年金のような年金の場合には、特別受益額が遺産分割時期の偶然性により左右されることになり、またこれを避けるため受益者たる相続人の平均余命を基準に中間利息を控除して相続開始当時の特別受益額を評価することは受益額が事実に反し衡平に沿わない遺産分割の結果を招くおそれがあることなどの諸点に照らすと、上記退職手当及び遺族年金を特別受益と解する見解を採用することはできない。

2  次に、生命保険について判断する。

各保険会社から受取人である申立人、相手方よし子又は相手方恵美に支払われた生命保険は、いずれも保険契約によるこれら受取人の固有の権利にもとづくものであることは、すでに判示したとおりである。受取人が相続人の一人であるとき、共同相続人の衡平を図るため、遺贈に準じ特別受益にあたるとする見解が見受けられる。しかしながら、退職手当等について述べたと同様に、(1)申立人らの受け取つた生命保険金は、被相続人と保険会社との間の保険契約にもとづき申立人らが受取人として保険会社から給付を受けたものであり、文理上民法九〇三条所定の被相続人の生前贈与又は遺贈に当たらないこと、(2)受取人である相続人が上記保険金のほかに相続分に応じた相続財産を取得しても、この結果は共同相続人間の衡平に反するものとはいえないのみならず、むしろ被相続人による相続分の指定など特段の意思表示がない限り、被相続人の通常の意思に沿うものと思われること、(3)保険金が遺留分算定の基礎に算入されながらも減殺請求の対象にならないものと解され(上記保険契約は被相続人と保険会社との間の契約であり、減殺によりこれを失効させたとしても、生命保険金が相続財産に、又は減殺請求権者に帰属することにはならない)、その結果、他に贈与又は遺贈がないとき、遺留分侵害を受けながら減殺請求ができない場合が生ずることなどの諸点に照らすと、生命保険金請求権の取得が遺贈に類似した側面があるにしても、これを特別受益に当たるとする見解を採用することはできない。

五  各相続人の取得額

以上のとおり、本件において、相続財産に持ち戻される特別受益は存しないから、各相続人の具体的相続分は法定相続分どおりである。

証人森山恵子の証言及び鑑定人○○○の鑑定の結果(昭和五四年三月三一日付不動産鑑定評価書及び「昭和五五年一月二〇日現在の評価額」と題する書面を含む)を合わせ考えると、別紙目録一記載の土地上に同目録三及び四記載の各建物が建つており、同目録三記載の建物は高田茂男に賃貸中であり、同目録四記載の建物には相手方よし子が居住しており、同目録二記載の土地は道路敷地であるところ、昭和五五年一月二〇日現在同目録一記載の土地のうち同目録三記載の建物の敷地部分(五一・二八平方メートル)及び同建物の各四分の一の持分の評価額は合計金二、一四七、〇〇〇円(千円未満は切捨て)、同目録四記載の建物の敷地部分(五三・九四平方メートル及び同建物の各四分の一の持分の評価額は合計金三、二五八、〇〇〇円であり(同目録二記載の土地は私道であり、その評価額は上記各評価額に含まれる。)、結局昭和五五年一月二〇日現在の相続財産総額は金五、四〇五、〇〇〇円であることが認められる。

したがつて、各当事者の取得額は、いずれも相続財産総額の三分の一に当たる金一、八〇一、六六六円(円未満は切捨て)である。

六  分割方法

甲第一号証、同第一〇号証の一、二、上記東京都職員共済組合年金第一課長○○○○○の回答書、本件記録編綴の家庭裁判所調査官の各調査報告書、証人小林保郎及び同森山恵子の各証言を合わせ考えると、次のとおり認めることができる。

申立人は高校二年生、相手方恵美は短期大学二年生であり、いずれも母森山恵子と同居し、同人により監護養育を受けており、森山恵子は、○○×丁目でスタンドバーを経営している。別紙目録四記載の建物は昭和三九年ころ森山恵子及び被相続人の出捐により新築されたものであり、同人らは別紙目録三の建物からこれに移り住んだ。森山恵子は、新築間もなく、この建物の一部を改造して○○○屋をし、その後○○○を開業したが、健康を害し、申立人らを被相続人の実家に預け、妹の許に移り、昭和四五年二月一四日被相続人と協議離婚をし、申立人らの親権者を父である被相続人と定めた。しかし、その際、森山恵子は健康の回復次第、申立人らを養育する希望をもつており、このことを前提に被相続人との間に財産分与の話しが出されたが、協議が成立するまでには至らなかつた。その後、同女は健康を回復し、経済力もついたので、昭和四七年夏ごろまず申立人を引き取つた。また、同女は、昭和四八年五月ころ被相続人から相手方恵美を引き取り養育することを頼まれた際、被相続人に対し、別紙目録記載の各土地建物を同女に譲るよう求めたところ、被相続人は同女、申立人及び相手方恵美らに譲りたいが、もう少し待つてもらいたいということで実現されないまま推移した。そして、同女は、本件申立後の昭和四九年秋ころ相手方恵美をも引取り、親子三人で生活するようになつた。申立人の法定代理人である森山恵子及び相手方恵美の特別代理人である小林保郎は、いずれも別紙目録記載の各土地建物を申立人に取得させることを望んでおり、森山恵子は申立人及び相手方恵美とともに親子三人で同目録四記載の建物に居住したい意向である。他方、被相続人は昭和四七年二月一〇日相手方よし子と婚姻し、同目録四記載の建物で夫婦生活を営んだが、その一年八か月後に死亡するに至つた。相手方よし子は、相続開始後東京都から被相続人の死亡による退職手当金九、四二七、五八〇円、遺族年金(昭和四八年一一月から昭和五四年八月分までの分)合計金三、〇二二、五六五円(円未満切捨)及び○○生命保険相互会社から生命保険二、二九三、〇七〇円を受け取つており、また、高田茂男から別紙目録三記載の建物の賃料(昭和五三年二月一日以降は一か月金三〇、〇〇〇円)を受け取つている。

以上のとおり認めることができる。

これらの諸事情を考慮すると、別紙目録一、三及び四記載の各土地及び建物の各四分の一の持分権並びに同目録二記載の土地の一八四分の一の持分権は、いずれも申立人の単独取得とし、申立人には相手方よし子及び相手方恵美の各自に対し、その代償金として、各金一八〇一、六六六円の債務を負担させ、これに対し本審判確定の日の翌日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を付すべきものとする。

なお、相手方よし子は、共同相続人すなわち共有者の一人として別紙目録四記載の建物に居住し、これを占有しており、本件分割後上記建物を占有使用する権限がないところ、前記認定のとおり、森山恵子は申立人及び相手方恵美とともに上記建物に居住したい意向である。したがつて、相手方よし子は申立人に対し、上記建物を明渡すべきである。

なお、本件手続費用中、鑑定人○○○に支給した金九〇、〇〇〇円は各当事者の平等負担とする。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 猪瀬慎一郎)

別紙目録<省略>

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